第2回 二つの先入観とリハビリテーション

前回は高次脳機能障害と言われているものには「学問的」高次脳機能障害と「行政的」高次脳機能障害の二種類があ り、我々医師は高次脳機能障害=「学問的」高次脳機能障害と考え、マスコミや法曹界は高次脳機能障害=「行政的」高次脳機能障害と考えていることを述べました。今回は高次脳機能障害に対するリハビリテーションについて考えてみたいと思います。

現在、高次脳機能障害に対するリハビリテーションは種々行われていますが、其の効果に関しては、「無効」とまでは言わないまでも「不明」と言うのが現状で す。高次脳機能障害者の脳内で何が起こっているのかが解明されていませんから、この障害に対する学問的に確立されたリハビリテーションがないのは当然です。

現場のセラピストの方々も高次脳機能障害者を前にして、いろいろと考えながら日々悪戦苦闘されているのが現状だと思います。平成19年に大阪府障がい 者自立相談支援センターが大阪府の病院を対象に行ったアンケート調査でも、高次脳機能障害の診断ができると回答した病院は多くありましたが、高次脳機能障害のリハビリテーションも行えると回答した病院は、診断をできると回答した病院のうちの半分以下でした。高次脳機能障害者のリハビリテーションに対するニーズに対応できていない現状が見て取れます。

ところで、私のように20世紀に医学部で神経学を学んだ医者は脳に関して二つの先入観を持っていると思います。

①脳細胞は分裂しない、
②ある神経回路の部品が壊れたら、その神経回路の働きは二度ともどらない。従って脳損傷による後遺症は治らないの二つです。
しかし、21世紀の脳科学の進歩は目覚しく、
① 脳細胞は分裂する。従って壊れた脳の修復・再生も可能である、
②ある神経回路の部品が壊れても、新たな神経のネットワークが形成され、その神経回路の働き がまた戻る。従って後遺症の制御・再建も可能であるに変わってきています。この21世紀の二つの脳の知見によって、新たな神経リハビリテーションが発展してきており、これまで「何となく」行われることもあった高次脳機能障害に対するリハビリテーションも、現在では脳科学の知見に基く訓練が試行錯誤されなが ら行われるようになっています。
従って、「根拠に基づく」訓練によって、壊れた脳に新たな神経のネットワークを形成し、高次脳機能障害の改善を目指すこと も夢ではなくなってきております。
希望を持って脳科学の進歩を待ちたいと思います。

この記事の著者

  • 安井 敏裕先生
    専門:脳血管障害・高次脳機能障害
    大阪市立大学医学部卒 馬場記念病院脳神経外科部長、大阪市立総合医療センター脳神経外科部長、同志社大学社会学部社会福祉学科非常勤講師等を経て現在「クリニックいわた」、「梅田 脳・脊髄・神経クリニック」に勤務。
    日本医師会産業医、大阪医師会紛争特別委員会脳神経外科委員
  • 安井先生
カテゴリ ドクターズファイル. Bookmark the permalink.