高次脳機能障害に伴う「易疲労性(疲れやすい)」については、本ブログ「其の20」において、一度書かせていただきました。
現在広く用いられている高次脳機能障害の診断基準(平成16年)によると、高次脳機能障害を有しておられる方々が日常生活や社会生活で様々な制約を感じておられる原因は「記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知機能障害である」とされています。しかし、外来で高次脳機能障害の方々の診療にあったておりますと、「易疲労性」が大きな問題であることが分かります。私の経験では高次脳機能障害の方々は、ほぼ全員が、「元気だった頃に比べて何倍も疲れやすくなった」とおっしゃいます。
「疲労」は医学的には、痛み、発熱などと同様に、体の異常を知らせる重要な信号の一つと考えられています。ただし、現在、疲労の程度は血液や尿を調べても分からないですから、いかに「疲労」を客観的に評価するかの問題があります。特に、高次脳機能障害の診断においては「器質的脳病変」であることをMRIやCTスキャンで証明せねばなりません。
近年、「疲労」に関する研究が進み、「脳と疲労」の関連について多くのことが分かっています。すなわち「疲労」を起こすのは脳内の自律神経の中枢(視床下部と前帯状回)であり、「疲労した」という情報を集めて「疲労感」として自覚させるのは大脳の前頭葉(眼窩前頭野)であることが分かっています。
重要な点は、MRIやCTではこれらの脳部位の異常の有無を検知することができない場合場合であってもPET(陽電子放射断層撮影)を用いると血流低下部位として示すことができるという点です。
自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会は、自賠責保険での「脳外傷による高次脳機能障害」の認定システムの見直しを数年に一度行っています。最後の改訂は2018(平成30)年5月に行われています。
そこでは、「MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されること」が必須項目となっております。ところが、PETについては、「現時点では、いまだ開発進行中の検査法であって、確定的なことを言える段階ではない。PETの異常のみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を判断することが出来ない。」とされています。
従って、MRIやCTで「器質的脳病変」を示せないことが多いMTBIでは、高次脳機能障害の症状として強い「易疲労性」を訴えていても、高次脳機能障害の認定が受けられないという現状があります。2018(平成30)年に認定システムの見直しが行われてからすでに6年が経過しております。その間のPETを用いた高次脳研究も進んでおります。そろそろ行われると思われる認定システムの見直しでは、PETがどのような位置づけにされるのかが非常に気になります。