私が外来で経過を見させていただいている高次脳機能障害の患者さんから、「近々、高次脳機能障害者の支援に関する法律ができるそうですね?
内容について教えてほしい」との質問を受けました。
高次脳機能障害者は外見から障害が分かりにくく、支援も行き届きにくい特徴がありますから、その方はこの法律が施行されればかなりの改善が期待できるのではないかと思っておられるようでした。
その時には私はその法律についてあまり知りませんでしたので、2025年11月時点で公開されている情報を少し調べてみました。
この法律は公明党の山本博司参議院議員が中心になって議員立法で作られました。令和8年(2026)4月1日を施行日とすることになっています。

主な内容は
1)高次脳機能障害の定義・対象を明確化する、
2)基本理念を示す、
3)国・自治体の責務を決める、
4)基本施策(支援のメニュー)を示す、
5)地域支援体制を構築する、
6)支援施策の内容・実施状況の定期的な公表・報告を義務付けるの6つとなっています。
2)の基本理念としては、
1.自立と社会参加の機会が確保され、尊厳を保って他者と共生できること、
2.社会的障壁を除去すること、
3.医療・福祉・教育・労働など関係機関が連携して、個々の事情に応じて、切れ目なく支援を行うこと、
4.居住地域に関わらず、等しく適切な支援が受けられることの4つが挙げられています。
従いましてこの法律が施行後にうまく運用されれた場合に期待できる主な改善点は、
①支援が“法律で「義務化」”される。これまでは国や地方自治体の「努力」に頼っていたため、地域差が非常に大きいという問題があったが、法律になることで、国・自治体が支援施策を実施する義務が生まれる。
②相談窓口やコーディネーターが整備されるので、「どこに相談したらよいのかが分からない」と言う問題の解決にむすびつく。
③医療・リハビリ体制の強化がされる。
④就労支援の拡充で働くチャンスが増える。
⑤家族への支援が法律に明記されます。
⑥学校・司法など“社会全体での理解”が進むなど良いことずくめです。
この法律には確かに支援の方向性が網羅されています。しかし、この法律の成立・施行のためには、条文の詳細、制度設計、予算・体制整備、地域実施など様々な課題が山積しているように思えてなりません。いくら立派な法律が作られてもうまく実施・施行されなければ意味がありません。
一般に法律が「実際に効力を発揮できる」ためのカギは、大きく分けて 4つあると言われています。
a)明確でわかりやすい内容であること、
b)実行できる仕組み(制度・予算・人員)が整っていること、
c)監視と強制力(罰則や義務付け)があること、
d)社会の理解と協力があることです。
私は現在、大阪府下の小さな診療所で細々と高次脳機能障害の診断書を作成するお手伝いをさせていただいておりますが、この中のb)が最も心配です。
なぜなら、高次脳機能障害の診断書を作成してくれる医師が見つからないという理由でわざわざ遠方から私のクリニックに来院されるという現実がありますし、ご家族も相談窓口がどこにあるのか分からないと言われることが多いからです。
ある立派な法律を作っても、実際に動かすための人(行政職員・専門家)やお金(予算)がなければ動きません。特に高次脳機能障害に関しましては相談窓口、専門家が明らかに不足していると実感しています。
研修制度などを通して“実行部隊”の養成をすることがこの法律が実のあるものになるかどうかの要と思います。
私の患者さんを含めこの法律の施行を待ち望んでおられる方々は多いと思いますが、「立派な法律を作れば人は進歩し、国・社会が変わる」と思うのは早計です。この法律についても、そのような過大評価は禁物で前途多難ではないかと危惧しております。














